スギ林を登っていくとやがてミズナラの森に入る。

すると、土が変化した。湿り気を帯び、落ち葉の腐植が進んで、厚い層を作っている。地面は背の低い樹木と草で覆われており、土はしっかりしていそうに見えた。

奥多摩の場合では、実はスギやヒノキ、カラマツの植林帯は全体の約50%だ。残りはというと、標高の低いところではミズナラやクリなどが沢沿いに広がり、標高が高くなるにしたがってイヌブナとモミの林、ブナの森へと変わっていく。東京の最高峰・雲取山の山頂近辺にはコメツガやオオシラビソの森がある。いずれも貴重な自然林だ。

ブナ林 幹についている傷はクマの爪痕
ブナ林 幹についている傷はクマの爪痕

では自然林ならば土は健康なのだろうか?

尾根に出て、尾根伝いにしばらく行くと、見晴らしのよいところで突然足元が崩れた。危うく滑落するところだった。ザザザッと不気味な音を響かせて土が斜面を流れ落ちていく。まるで蟻地獄の縁に立った気分だ。
落ち葉のせいで気づかなかったのだが、ここの地面も丸裸で、土を掴むと乾燥しており、まったく締まりがなくなっていた。

想像以上に進んでいる山林の土壌の劣化。背筋が寒くなった。

土壌が劣化すると、何がおこるのか?
奥多摩町の町長河村文夫氏はかつてこんなことを言っている。

平成 16 年 7 月 11 日に集中豪雨があり、これまでにないような天候にみまわれ鹿の食害にあった森林の表土が大量に流されました。その表土が押し流された先に川苔山という山があり、その山の水源地での取水がで きなくなったという害を被ることとなってしまったので す。(中略)登山道がなくなり、人が歩けば土がぽろぽろと取れ、川苔山の状況はすさまじいものとなっていました。(2006年 学芸大学主催の講演)

土壌が劣化すると、土を構成する粒子同士がばらばらになってしまい、雨が降ると容易に流されてしまう。これが表土流出(または土壌流出)だ。その結果、予想されることは次のようなことだ。

  1. 風で表土が吹き飛ばされる
  2. 土の保水力が不足し水源が涸れる
  3. 樹の根がむき出しとなり、土砂とともに雨で流される
  4. 森林が消え、荒れ地に強い草本主体へ植生が変わる
  5. 土砂災害が増加する
  6. 1)〜4)の結果、下流域が水不足に陥る
  7. 森林が川へ供給していた栄養分が少なくなり、農業・漁業に深刻な影響が出る
  8. 森林が衰退する結果、葉からの水分蒸散が減るので気温の上昇につながる。またCO2の吸収量が減り、地球温暖化に拍車がかかる

実際、近年は各地で大雨により表土が流され、大量のスギの木が川やダムを堰き止める災害が多発している。土がなくなってからでは遅いのだ。

(この項続く)

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