駅のホームからエスカレーターに乗った。混んでいて人の流れが淀んでいたが,右はガラ空きだったので右に立った。
すると後ろから「アノ」と声が。振り向くと20前後の男。
前方を指を差しながら「エート,ソノー」
外国人で日本語がうまくないらしい。
「歩きたいの?」
「ハイ!」
そこで私はにっこり微笑んで言った。
「そう。でももうすぐ着くからね」
私は歩きもせず道を譲りもしなかったが,4秒後には彼は下に着くことができた。もし彼がエスカレータを歩いて降りたとして,いったい誰にどれだけの利益があるだろう。時間にして10秒,20メートルくらい前へ行けるだけだ。目的地に到着する時刻にほとんど違いはない。
電車に乗る場合を考えてみよう。仮に先を急いでいるとして,あなたがエスカレーターを駆け下りたら,あなたのために電車が予定より早く到着してくれるのか?あなたのために予定より早く出発してくれるのか?そんなことはありえない。世界はあなた中心に動いてはいない。あなたの行動は電車の行動が電車の動きに影響を与えないのだから,エスカレーターを歩いても歩かなくても,目的地に着く時刻は変わらないのだ。あなたの考えは合理性に欠ける。
もし先を急いでいるなら,エスカレーターを降りた後,あなたは全力で走るのか?私はエスカレーターを歩く人の中で,降りてから走る人を滅多に見たことがない。ではエスカレーターを歩くことにどれだけの利益があるというのだろうか。
私の元上司はせっかちで,一緒に歩くときはいつも必ずエスカレーターで歩いていた。私は反対にエスカレーターで全く歩かない。しかし,目的地に彼より遅れたことは一度もなかった。
先を急ぐ人はエスカレーターを歩いてよい,歩く権利がある,と思っている人。そういう人は他者への想像力が足りない。
常識を疑え
あなたは駅などのエスカレーターに乗るとき,右側(大阪なら左)を空けますか?そうですか。ではなぜ?
「みんながしているから」
「先を急ぐ人に配慮して」
それって本当に他者への思いやりと言えるのでしょうか。
もし脳卒中で自分の左半身が不自由になったとしたら,と想像してみましょう。エスカレーターでは立ち止まっていたい。手すりにつかまっていたい。右手しか自由がきかないあなたは右に立ったとします。ところが,そこで後ろから声がかかる。
「歩いて」
それでも動けないあなた。
すると後ろの人物は舌打ちをして,無理やり追い越していきます。そのとき,相手のカバンが体に当たり,あなたは倒れてしまいます。
エスカレーターで歩くことは危険であり,弱者への配慮に欠ける行為なのです。
「安全のため,エスカレータでは歩かない」
これが良識。
じつはエレベーター・エスカレーターの製造者・管理者で構成する一般社団法人日本エレベーター協会では,以前からエスカレーターで歩かないように呼びかけてきた。
7月21日から同協会と全国の鉄道事業者51社,商業施設,羽田空港、成田空港、日本民営鉄道協会、日本地下鉄協会が共同でエスカレーター「みんなで手すりにつかまろう」キャンペーンを実施している。
常識だからと済まさずに,なぜそうするのかを自分の頭で考えてみよう。
参考
日本エレベーター協会「エスカレーターを安全、快適にご利用いただくために」
エスカレーター「みんなで手すりにつかまろう」キャンペーン(JR東日本)