久しぶりに多摩地方の野山へ出かけた。場所は日出町の東部、平井に広がるなだらかな丘陵地97ヘクタールを利用した、ひので野鳥の森自然公園だ。Googleマップを見ていてその存在に気づき、翌日さっそく出かけてみることにしたのだ。
はじめに日出町のページhttps://www.town.hinode.tokyo.jp/0000002372.htmlから地図をダウンロードして事前情報を手にいれた。公園の南を西から東へ平井川が流れ、東側には圏央道が通っている。平井は平井川の流れによって形成された平地で、そこに人家と田畑、商業施設や公共施設が点在している。
公園を含む山は平井の北に向かって高くなり、尾根が公園の縁となっている。尾根から平井川に向かって三筋の沢が流れ込む。山といっても低いもので、最高地点が290m。麓との高低差は120メートルほどしかない。以前は薪炭林として利用されていた、いわゆる雑木林だ。以上が公園の基本情報。
装備は写真撮影機材が主で、それ以外は公園の地図、雨具、水筒、握り飯、ルーペ、懐中電灯、手拭い、ハンドタオルといつも持っていく応急処置道具類一式をカメラ用バックパックに詰め込み、一応三脚も持っていくことにした。
さて、当日は午前8時40分にJR五日市線武蔵引田駅に到着。そこから徒歩で公園管理棟を目指す。20分ほど北へ歩くと平井川が見えたので、千石橋を渡り、突き当たりの常福寺門前を右へ。細い川を越えると野鳥公園入り口の看板があるが、今回は管理棟の方から登る予定なのでそのまま通過して、さらに5分ほど行くと管理棟への小道を示す看板があった。地名は「谷ノ入」という。その名が示すように、地形上は谷戸だ。
小道はなだらかな登りで、まもなく管理棟があった。駐車場は7台分あり、1台の車が停まっていて人がいた。挨拶すると、管理担当者の方だった。今日初めて来たことを説明し、「谷ノ入古道」という沢筋を通り、尾根まで行く予定だが何分くらいで行けるかと尋ねると、20分くらいで行けるとのこと。但し、道が分岐してから先は急勾配なので、下りはキツくなる、尾根筋をいくルートもあるので、そちらの方が楽だと教えてくれた。
午前9時20分、公園内に入る。公園の中は高い木が空を覆い、薄暗いところが多い。沢沿いの道を歩いてゆく。日陰の斜面には羊歯の仲間が目立つ。
左手の斜面に獣道を見つけた。新しい足跡がある。そのひとつは猪であろう。それ以外の小さい足跡は輪郭が不明瞭で何者かは判別できなかった。他にも何本も獣道が見つかった。そのうちのひとつには猪か鹿がうずくまったようなあとがあった。
栗のイガがたくさん落ちている。中身はないが、食痕もあった。食べたのは何者だろうか。
高木はくぬぎ、こなら、しで、栗、やまざくら、杉、樅(もみ)などが混在し、どれが優勢ということはない。立ったまま朽ち果てている木もある。
倒木の表面に白い毛のようなものが生えていた。菌なのか?いや待て、先端が少し黄色がかっているではないか。すると植物なのか?どうもわからない。でもかわいいので写真に収める。
落ち葉に白い膜のようなものが見える。菌の一種で、林床では普通にみられる。かれらやバクテリア、小さな土壌動物たちが落ち葉をゆっくりと分解してくれるので、植物は土から窒素やリンなどの栄養素をとることができるわけだ。
紫蘇(しそ)のような花を見つけた。刺身のつまに似ている。帰ってから調べるとアキノタムラソウ(秋の田村草)らしい。シソ科アキギリ属の草であるから、紫蘇に似ていると思うのも当然だ。
明るいところには水引(ミズヒキ)の群落があった。
さらに登っていくと、視界がひらけ、ススキの群落がある。ススキはよく育っていた。
ススキの原を過ぎると道が左に折れ、分岐する。一番左の、道成のルートをゆく。ほどなくして頂上に。写真を撮りつつあちらこちらで生き物を観察しながらの散歩なので、もう午前11時20分だ。展望台からの眺めはこんな感じ。ベンチがあるので、腰掛けて早い昼食にする。持参した握り飯とコンビニで調達したサラミソーセージ、缶コーヒーで胃を満たした。真夏と比べればさすがに涼しくなったので、水筒の茶も十分残っている。
20分ほど休憩したら出発。尾根道を左に行けば猿取山の頂上はすぐだった。ここからもう一つの沢へ降りていく。
木々の葉で光が遮られた薄暗い空間を蝶が舞っている。写真に撮って調べるとクロコノマチョウ(黒木の間蝶の意)だと判明した。鱗翅目タテハチョウ科ジャノメチョウ亜科の蝶であるが、翅(はね)の表側にある蛇目模様は小さめで、捕食者への威嚇効果には疑問が残る。その代わり、翅の色は枯葉に似て、留まっていると目立たない。夏と秋で成虫の姿が異なるそうで、見たのは秋型の個体だった。特徴は前翅の縁が突き出て角張って見えること。飛び立つとけっこう大きく立派な蝶だ。昆虫図鑑によれば、幼虫の食草はイネ科の植物で、ジュズダマのほか、ススキもリストに上げられている。ススキの群落は近くで見たばかりだ。
柊(ヒイラギ)の写真を撮った。その時には気づかなかったが、パソコンで見ると何やら写っている。明るい緑の羽と長い後ろ足、長い触角が2本。頭はちょうど葉の陰になって見えない。
枝に小さな棘のある植物が目に入ったので写真に撮った。薔薇に似ているが葉が違う。モミジのように三つ叉に分かれていて、3つのうち中央が特に大きく長い形をしている。これらの特徴から絞り込むと、バラ科キイチゴ属のナガバモミジイチゴ(長葉もみじ苺)と思われるが、確証はない。
沢を見ながら歩いていたら、視界の縁にカエルの影が。気づいて振り返り追ったが、岩陰に隠れてしまった。カエルもめっきり減っている。カエルツボカビ感染によると思われる世界的なカエルの激減から、立ち直る気配がまだ見られないのは心配だ。
さらに数分して、今度は蛇の姿も目に留まった。今度もすぐに逃げられたが、こちらは後ろ半分をしっかり目撃できた。アオダイショウの若い個体だ。彼らが生きていられるということは、うれしいかぎりだ。
今回の散策でクマの痕跡は見つからなかった。しかし目撃情報はあるということなので、注意が必要だ。
読んでくださった方へ 念の為に付け加えますが、同公園での動植物の採集は禁止です。興味を持つことはいいのですが生物全体の生きる力が弱っている現在、採集することはその生物が地域から姿を消す可能性を高めます。とはいえ子どものみなさんはあまり硬く考えず、むしろ見てきいて、においをかいで、ふれてくださるようねがいます。観察したら返せばよいのです。
また、植物の種子が衣服や靴、バックパックやストックなどについて運ばれる可能性があります(今回の山歩きでも「ヒッツキムシ」が靴やパンツの裾についた)が、場合によっては移動先の環境を汚染することになりかねないので、帰りがけに調べて落としておきましょう。
持っていってよかったもの:マクロフィルター、フラッシュライト、予備バッテリー
不要だったもの:三脚
持っていかなかったがあると良いもの:望遠ズームレンズ
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