スギの植林地 間伐が進まないため下草が全く生えず、土は痩せている(奥多摩にて)
スギの植林地 間伐が進まないため下草が全く生えず、土は痩せている(奥多摩にて)

森林の土が失われることで何か問題あるのか?大ありだ。

土が失われれば、土が中に貯えていた水もなくなる。

もちろん人間の食料生産にも深刻な打撃を与える。

土壌流出の原因の一つは、シカの数が増えていることだと指摘されている。いま日本では増えたシカが地表の植物を食べ尽くしてしまい、そうした森の表土が流されてしまう害が多発している。

私が体験した奥多摩のブナ林のばあいも、シカが地表の草木を食べて裸地化が進行している。シカの個体数を調整しようにもハンターが足りないのが現状だ。

国立公園の森林を荒らしているシカの問題についてはテレビでも報道されているが、これには少々異論がある。シカを減らせば問題解決かというと、そう単純ではないと私は考えているからだ。

シカがなぜ標高の高い奥山に生息しているのか?ニホンジカは本来森林と草原の入り交じる平野部に好んで棲む動物だ。シカの主食は草原の草ややわらかい木の芽であり、険しい山岳地帯にいること自体が不自然なのだ。そこを考える必要がある。

食べるものがなくなったシカは樹皮をはがしてかじるため樹が枯れてしまう
食べるものがなくなったシカは樹皮をはがしてかじるため樹が枯れてしまう

この問題については今はこれ以上立ち入らないけれども、そもそもシカが荒らすまでもなく,間伐が遅れている人工林のかなりの割合で、下草や低木がほとんどない状態になっている。

このことが表土流出の一番の原因だ。

地表から草や低木がなくなり土が露出すると、水分の蒸発量が増えることが報告されている。そうなると土の乾燥が進み、風雨によって失われていく。

また、健全な森林では植物の根が表土をしっかりと掴んでいるが、その機能が失われるため、雨が降ると表面を流れる水に土が流されてしまう。

グラフ 表土流出量比較
土を覆う植物が貧相なところは地表に草が生えている箇所の10倍の表土が流失する 出所:岐阜県森林科学研究所

さらに、これは確かな証拠がないことなのだが、土自体が「劣化」をおこしているのではないかと感じている。触ってみて土質が違うのだ。おそらく植物以外の生物の種類や数にも土壌流出の激しいところとそうでないところでは違いがあるのではないか。

土は生物が創り出しているものなのだということを忘れないようにしたい。

 

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1件のコメント

  1. 京都でも森の環境破壊は複合的です。土中の微生物も目に見えない所で、種類が減っていると指摘されています。時間があれば10年くらいかけて、じっくり調べてみたいテーマですね。
    ただ、温暖化による環境変化という点では、1970年代の京都北山の姿、虫や植物、動物との関係もかなり変えられてしまって、もう以前の姿が見られない、微生物もそうじゃないかと思います。
    暑くなり、乾燥化も進む。この植物への影響は非常に大きいと思ってます。とにかく、彼らは(種類によっては)疲れてきている。

    京都周辺でも”蛇抜け”が見られるようになり、東山や法然院、哲学の道あたりでも、いずれ大規模な土石流による大きな被害が発生しそうです。引き続き、森の変化、追っかけてください。

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